- 2011-11-20 (日)
- Way Of Living
以下、備忘録な引用:
大人のADHDに多い合併症 - 全般性不安障害
p.142
特に病気や悩み事もないのに、漠然とした不安や心配がつきまとい、それが慢性的に続き、さまざまな身体的、精神的な症状が現れる精神疾患です。
精神的な症状としては、慢性的な不安、緊張、落ち着きのなさ、過敏、イライラ、怒りっぽさ、集中力や記憶力の低下など、身体的な症状としては、筋肉の緊張、首や肩のこり、頭痛、朦朧感、震え、動悸、息苦しさ、めまい、吐き気、悪寒、手足の冷え、頻尿、下痢、疲れやすさ、不眠などがよく見られます。
身体症状が気になり、「どこか悪いのではないか」と考え、病院で診てもらっても、症状の原因になるような病気は見つからず、かえって不安になる人が少なくないようです。
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大人のADHDにしばしば全般性不安障害が合併するのは、彼らが不注意傾向や衝動性などのために自分の言動をコントロールできず、いつも漠然とした不安を抱えて生きているためと考えられています。
大人のADHDに多い合併症 - 依存症・嗜癖(しへき)行動
p.148
筆者の八〇例の大人のADHDの人を対象とした調査でも、三〇例が依存症や嗜癖行動を合併していました。その内訳は、アルコール依存一三例、過食症七例、浪費癖六例、セックス依存三例、抜毛癖三例、ギャンブル依存二例などでした。
これは一つには、彼らが自己評価や自尊心、ストレス耐性が低く、感情も不安定であるため、心の不安を解消しようと、逃避的、刹那的に依存症や嗜癖行動に走りやすいのだと考えられています。サリバンらが指摘するように、発達障害者は判断能力が低く、衝動性が高いために、そうした行為に走りやすい面もあると思います。
発達障害と向き合う - 自分だけの時間と場所を作る - 「クールダウン」することが重要
p.179
発達障害の人は、パートナーや家族、親友など、どれほど親しい人と同居していても一人になって自分自身に戻る時間が絶対に必要です。
これは情緒の安定と興奮、パニックの予防のためで、この点については『おとなのADHD』著者デイヴィッド・サダースもその必要性を力説しています。
一人の時間は、彼らにとって心安らぐ時間です。周囲の人からは、あまり意味のない趣味に没頭しているように見えても、本人にとってはそういう時間を持つことが、何よりの心の安定剤になっているのです。ですから、発達障害の人には一人で静かになれる「クールダウン」のための時間と場所がどうしても必要になります。さらに言えば、そうやって自分だけの時間と空間を持つことは、やるべきことを冷静に考え、優先順位をつけて計画的に実行するためにも有益です。
自覚することが大切
p.185
発達障害者は、感情や衝動性のコントロールができないため、しばしばそれらが爆発してパニック状態になり、パートナーや子どもなどに暴言を吐き、暴力を振るいます。 依存症や嗜癖行動に陥るのもそのためですし、うつ病を合併すると感情が不安定になり、ますます攻撃性が激しくなります。
自制心を育てるのに最も有効なのは「自分は発達障害者である」と自覚することです。これに勝る良薬はありません。
自分の欠点を知れば、なるべく聞き役にまわるなど短時間でも沈黙を守るテクニックが身につきますし、
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また周囲の理解や協力を得る手段を講じることもできるようになります。
働きすぎに注意する
p.185
発達障害者には働きすぎ、仕事中毒の人が少なくないと専門家は指摘しています。
不注意傾向などで彼らは「仕事ができない」と思われるケースが少なくありませんが、一方で職場の専門領域では達成感や成功体験を重ねて自信を持っているため、安心して仕事に打ち込めるのです。しかもこれらを彼ら特有の過集中が後押しします。
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そうやって仕事に夢中になるのは、周囲の評価も高くなるので一見よさそうですが、反面、家族や友人と一緒に過ごす時間が少なくなり、コミュニケーション不足から大切な人間関係が確立できないなどの弊害もあります。
認知行動療法
p.197
人は誰でもその人個人の「考え方の枠組み」を持っています。この枠組みが歪んでいると、現状を正確に把握したり、冷静に判断できなくなり、おかしな偏った思考回路にはまってしまいがちです。これを「認知の歪み」と言います。
認知の歪みの例としては、たとえば、
などがあります。
- すべてを悲観的に考える「マイナス思考」
- 些細な出来事を過度に一般化して考えてしまう「過度の一般化」
- 「何々しなければならない、何々ができなければならない」と考える「すべき思考」
- 「よいか悪いか、完全か不完全か」と考える「二者択一的思考」
- 自分に無関係な出来事であっても関係しているかのように判断する「個人化傾向」
認知行動療法とは、簡単に言えば、こうした認知の歪みを見直すことで、おかしな偏った思考回路にはまり込んでしまった考え方のパターンから抜け出すための方法です。
このため特にうつ状態に陥っている発達障害者には治療の効果が期待できます。
薬物療法 - 中枢刺激剤の服用で症状が劇的に軽減する
p.202
大人の発達障害、特にADHDやAS(アスペルガー症候群)には薬物療法が極めて有効です。これは欧米の専門家や臨床医の間では繰り返し強調されていることです。
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中枢刺激剤のメチルフェニデート (以前はリタリン、現在はコンサータ) によって、子どもの発達障害と同様に症状が劇的に軽減することは頻繁にあります。
筆者の外来を受診した八〇名の大人のADHD患者において、メチルフェニデートを使用したところ、やはり衝動的行動、多動、感情の易変性、不注意、ストレス耐性の低さなどの症状が著明に改善しました。またケースによっては合併症であるうつ病、依存症、嗜癖行動不安障害も改善しました。
食事療法による治療
p.210
発達障害の治療では、食事も極めて重要です。バランスのよい食事を心がけるのはもちろん、必要に応じて健康食品やサプリメントを利用するのもいいと思います。 例えば「ピクノジェノール」。松の樹脂 (松ヤニ) から抽出するポリフェノールを多く含む抗酸化食品です。西欧や米国では四〇年前から糖尿病性網膜症の治療や血栓症、心臓病などの治療に用いて効果があったとの研究報告があります。 日本ではまだ健康食品扱いですが、近年、ADHDの治療に用いられ、多動、不注意、協調運動能力などに有効であるとされています。
あるいは、アメリカセンタン草、ミカンの粉末、ノミノフスマ、ヨルガオの芽、ジシバリの五種類をブレンドした「ハーブサプリメント」。これは、ADHD、AS、PMDD (月経前不機嫌性障害) に有効とされています。
持っている才能
p.228
しかし、その一方で彼らは、多くの素晴らしい長所も持っているのです。
たとえば、自分の興味や関心のあることには誰にも真似できないほど夢中になれる人並み外れた集中力(過集中)や好奇心(新奇追求傾向)があります。誰も思いつかないような「ひらめき(インスピレーション)」を発揮することがあるのも大きな特徴です。
気持ちが素直で、表と裏がなく、腹黒い下心などを持たないため、褒められると「疲れを知らない子どものように」頑張れるのも優れた特性の一つです。
p.234
また発達障害者は、視覚的な思考に長けている人が多いことも知られています。自分の考えを言葉でうまく表現するのは苦手ですが、具体的で視覚的なイメージに置き換えるのは一般の人よりはるかに得意です。
逆に向いていない仕事
p.235
などを指摘することができます。
- 高度な協調性や熟練した対人スキルが要求される営業関係や接客関係
- 優れた管理能力が要求される人事、経理、総務関係
- ミスが大事故に直結するような交通、運輸関係
- 複数の要求を同時にこなす必要がある飲食関係
- フライト変更など不測の事態への臨機応変な対応が求められる旅行関係 (代理店など)
- 日々相場がめまぐるしく変わる金融関係 (株、為替、先物など)
- 常に柔軟な対応が要求される各種の予約係や顧客窓口
ニート
p.242
社会不適応の極端な例である「ニート」は、近年の総務省統計局の調査では約八九万人いるとされます。ニートに占める発達障害者の割合は、厚生労働省の調査では二割強ですが、約八割とする別の調査もあり、正確なところは不明です。
ただし、筆者は現在、外来でニートの人を一五〇名ほど診ていますが、そのほとんどは発達障害者であり、臨床的には後者のデータの方が実態に近いと思います。
発達障害のある人は、もともと自分を客観的に見つめたり、得手不得手を理解したり、長期的な人生の目標やビジョンを描いたりするのが苦手です。
基本的に目先のことしか考えられず、たとえ長期の目標を立てたとしても、それに向かって長期間努力することができません。
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しかし、彼らは本来、興味や関心のあることであれば、情熱を傾け、黙々と努力することができます。それらは彼らが得意なことで、優れた才能が隠されている可能性がある部分ですから、ほんとうであれば、それを上手に引き出し、育てるような教育的な支援がなされるべきなのですが、残念ながら現状ではまだまだ不十分と言わざるを得ません。