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アスペルガー症候群 - 岡田 尊司

アスペルガー症候群 - 岡田 尊司 (2009年)

以下、心に残った部分を引用:

感情が言葉にならない (大人)

※表題末尾の (大人)(子供) 表記は僕が独自に付与したものです。

p.60

アスペルガー症候群や高機能自閉症では、相手の気持ちがわかりにくいだけではない。実は、自分自身の気持ちや感情、感覚も自覚されにくい。その感情が怒りなのか、悲しさなのか、悔しさなのか、はっきりとした分化を遂げておらず、自分がどんな気持ちなのか、本人にもわからず、ただ不快な感じとしてしか意識されずに、癇癪という形で暴発させてしまう。
... 自分の感情や身体感覚に対して、無頓着・無関心で、気持ちや苦しさが自覚されにくい。そのため、つい無理をして、適切な休息がとれず、心身症やうつ状態や他の精神障害になりやすい要因ともなる。
痛みや寒さといった感覚に対して、無頓着に見えることもある。体の筋肉の緊張や呼吸の早さ、心臓がドキドキするといった生理的な反応に対しても、それが不安やストレスに対する反応であるということが自覚されにくい場合もある。
したがって、より複雑な気持ちや感じていることを、言葉にして伝えることには、しばしば困難を伴う。理屈っぽいことや知識については雄弁に語ることができても、自分の感じていることを、さりげなく表現するのは苦手である。「自分の気持ちがわからない」「うまく言えない」ということはよく起こる。

秩序やルールが大好き (大人)

p.75

このタイプの人の秩序やルールを好む傾向は、物事を整理したり、分類したり、規則を作ったりすることへの熱中としても現れる。細かな計画を立てたり、図面を描いたり、リストを作ったりすることに喜びを見出す。雑然とした物事に、一定の秩序を与えることに幸福と安心を覚えるのである。しばしば起こることだが、現実の物事よりも、こうした作業自体に熱中し、現実から遊離してしまうこともある。
一定のルールと秩序をもった体系がシステムであり、雑然とした現象にルールと秩序を与えて、コントロールや予想をしやすくすることを、システム化という。
このシステム化の能力は、法律、会計学、科学、建築学、エンジニアリング、コンピュータサイエンス、音楽などの幅広い分野において必須のものであり、このタイプの人が、これらの分野で活躍する原動力となっている。法則を見出したり、システムを構築したり、新しい知の体系を生み出したりするのは、まさにシステム化する能力の産物である。
コンピュータやゲーム、インターネットといった世界に、このタイプの人が惹きつけられやすいのも、現実の世界よりも見通しが立ち、思い通りにコントロールできる醍醐味を味わえるからだろう。これらの分野で、技術者やクリエーターとして活躍する人も多い。
ちなみに、システム化する能力において優れ、共感する能力において劣っているという両者の乖離こそ、アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラムの根本症状であるとする仮説も提出されている。

アスペルガー症候群とうまく付き合う - ルールや約束事を明確にし、一貫した対応を

p.145

アスペルガー症候群は、社会的常識がわかりにくく、自分の気持ちや欲求しか見えなくなりがちで、相手の都合や反応に関係なく、一方的な行動に走ってしまいやすい。こうした事態を防ぐ上で有効な方法は、最初にルールを設定し、それをできるだけ明白な形で提示しておくことである。
...
一定のリズムとルールを維持しながら生活した方が、快適に生活できるし、高い生産性を保つことができる。その意味で、このタイプの人にとっては、自分の果たすべき役割や仕事は、とてもよい生活のペースメーカーとなってくれる。それが失われた途端に、ペースを乱してしまうということがよくある。
いったんルールが決められると、気まぐれな変更や場当たり的な対応は、このタイプの人を混乱させるばかりである。一貫した対応をとることが大事である。最初は乗り気でなくても、習慣として定着すると、それを続けることに安心感を覚えるようになる。家庭でも、生活のスケジュールややり方を一定したものにして、それを、よく見えるところに貼りだし、次に何をするかの見通しが立ちやすくするとよい。

暗黙のルールも、具体的に説明する (子供)

p.148

このタイプの人は、言外の意味やニュアンスというものがわかりにくい。言葉を、まさに文字通りに受け取ってしまう傾向が強い。かなり知能や教育程度の高い人でも、このタイプの人は、口にしている言葉と、本当の意図が別だということが理解できない。
社会性の長けた人にとっては、揉まれて成長する中で、言葉で語られたことだけでなく、言外の意味や意図を読み取り、相手の意向と調整しながら、自分の意志を表明した願望を実現していく術を身につけている。しかし、アスペルガー症候群の人は、元々そうしたことが苦手な上に、もっと別のことに興味や関心を注いでしまうため、言外の意味や暗黙のルールを察知できず、語られた言葉だけに囚われてしまいやすい。
このタイプの人と接する場合や、そのスキルアップを図る場合にも、普通なら暗黙の了解でわかり合える部分も、曖昧さが残らないように明確な言葉で説明することが基本である。

助けを求めるのが苦手である

p.161

アスペルガー症候群では、子どもであれ大人であっても、深刻な問題や苦しい状況が生じているのに、必要な助けを求めることができずに、自分の中で何とかしようとして、限界を超えるまで我慢し、追い詰められてしまうということが多い。ソーシャル・スキルのある人ならば、問題が生じると、早め早めに相談し、助けを求めることで、問題解決をはかると同時に、自分のストレスを減らすことができるが、このタイプの人は、それが器用にできない。
子どもの頃であれば、それが不機嫌や癇癪として現れたり、問題行動や体の症状として出たりする。思春期以降は、症状はさらに複雑化し、さまざまな問題行動や精神的な症状となって現れることも多くなる。大人では、うつ状態や不安障害、心身症という形で表面化しやすい。近年、うつ状態や不安障害で精神科を受診する人に、アスペルガー症候群などの軽度発達障害があるケースが目立つようになっている。
こうしたことを防ぐためにも、小さい頃から、問題や困ったことがあったときは、助けを求めることができるように、日頃からスキルを身につけさせておくことが大事だ。ただ、それを言葉に出して言わせようとすると、どのタイミングで、どんなふうに切り出したらいいのかがわからず、スムーズにいかないこともある。その場合は、助けが必要になったときに、一定のサインを決めておいて、それを示す方法が有効である。 ... 助けが必要なことを察知して、窓口に繋いであげる仲介役が必要である。

技術的に優れていても、マネージメントは不得手 (大人)

p.163

このタイプに非常に多いのは、一技術者として働いてた間は、何事も問題なくやれていたのに、年齢が上がり、チームリーダーや管理職として仕事をせざるを得なくなったとき、途端に、仕事がこなせなくなってしまうという状況である。ストレスのために、うつや心身症などになってしまうケースも多い。雇用する側も、このタイプの人の特性をよく理解し、マネージメントの仕事を無理にやらせないことも破綻を防ぐことにつながる。本人の側も、そのことをアピールする必要があるだろう。ただ、リスクも伴うが、成長の機会となることも事実である。このタイプだった人も、リーダー的な役割を果たしていく中で、社会的スキルをみがき、円熟していくということも多い。一度は思い切ってやってみるというのも、大事だろう。やるとなった場合には、さまざまな工夫を凝らし、管理能力や実行機能の乏しさを、うまく補っていくことが必要である。その重要な武器は、何事も視覚化して管理することであり、動きやすいシステムを作り上げることである。
また、部下の意見を聞き、仕事を任せ、まめに評価を与えて、手足となってもらえるように、味方につけることである。うつになってしまうパターンで多いのは、自分で何もかもやろうとして、部下に任せることができないという場合である。

メリハリのある対応が大事 (子供)

p.166

こうした問題行動を防ぐ基本は、曖昧な言い方を避け、明確なルールを示し、本人にとって予測がつきやすく、対処しやすい状況を作ることである。さらに、好ましい行動は褒め、一歩外れた行動に対しては、はっきりと拒否を示す。
トラブルが生じた場合には、大抵、曖昧さから何らかの誤解が生じている。ルールを再確認すると同時に、そこから、もっと適切な対処の仕方を学ばせるという対応が望まれる。
しかし、激しい行動が目の前で起きると、誰もが焦り、どうにか早くそれを止めようと思い、その行動だけに目が向かいがちである。その目的のためだけに、本人の欲求を即座に満たそうとしたり、逆に、厳しく叱ったり、力尽くで止めさせようとしがちである。しかし、そうした近視眼的な対応は、その場では収めることができたとしても、その行動を強化してしまい、長い目で見ると、エスカレートさせてしまうことも多い。
それを防ぐためには、問題行動に対して周囲が過剰反応しないように冷静な対応を心がけることが求められる。ときには、まったく無視した方がよい場合もある。

子ども時代に身につける大切なこと (子供)

p.167

家庭、学校での生活がスムーズにいき、その子にとって実りのあるものとなるためには、その子の特性をよく知った上で、生じてくる問題に対処するとともに、強みとなる部分をできるだけ伸ばす関わりが必要である。
学習的な課題は、ごく一部に過ぎない。もっと大きな意味で、人間として生きる上に必要な力を身につけ、本人が大人になったときに、自立して世渡りしていけるようになることが、本来の目的である。
親がその子のために与えることのできる最上の贈り物は、安心感と自己肯定感である。この二つを授けられた子どもは、多少の逆境に出会おうと、方法を模索しながら、わが道を切り開いていく。苦しい状況に置かれても、自分を追い詰めすぎず、希望を保ち、一歩一歩進んでいける。少々生き方が不器用だろうと、世渡りが下手だろうと、自分を信じ、自分が進んでいる道を肯定することができれば、やがてその人は、自分にふさわしい生き方にたどりつく。不器用で飾り気のない純粋さゆえに、その価値はいったん認められれば、揺らぐことはない。

アスペルガー症候群の子を指導する際のポイントとは (子供)

p.171

  1. 一日の流れを、決まったものにする
  2. 明白なルールを作り、それを一貫させる
  3. ルールは、できるだけ具体的にする
  4. ルールや日課は視覚化し、見えるところに掲示する
  5. 一つ活動を行う前に、予めいつまでで終わりになると見通しを与える
  6. 活動と活動の変わり目では、前もって予告をするなどの工夫をする
  7. お気に入りのことは、苦手な活動の後でする
  8. 否定的な言葉を使わずに、できるだけ肯定的な言葉を使う
  9. 感情的に叱ることは慎み、どうすればよいかを客観的に伝える
  10. よいことは、まめに褒めて強化をはかる
  11. よくない行動を叱るより、よくない行動をしなかったときに褒める
  12. ご褒美は、一回分は控えめで、積み重ねられるものがよい
  13. 本人の特性を活かす方法を考える
  14. 本人の主体性、気持ちを尊重する
  15. 問題行動に過剰反応せずに、その背景を振り返る

食事と偏食 (子供)

p.176

アスペルガー症候群では偏食が多く、しばしば変わった食習慣を長年続けていることがある。ごく限られた種類のモノしか口にしない場合もあるが、成長するにつれて、食べられるものが徐々に増えていく。新しい食べ物に対して食わず嫌いな傾向が強く、匂いや舌触り、味に対して敏感で、慣れないものに嫌悪感、拒否感を抱きやすい。無理じいすると、嫌悪感を強めてしまい、他のものまで吐いてしまったりする。偏食を克服する方法としては、調理法を変えて、その姿や味がわからなくするのがよく使われる。

学習法 (子供)

p.197

アスペルガー症候群の子の場合、知能や言語能力の高さから、落ち着いた環境で自ら意欲をもち、適切な指導を受けて取り組めば、学力は飛躍的に高まることも多い。それは自信回復のきっかけになるだけでなく、周囲の評価が違ってくることで、他の面での改善にもつながりやすい。

p.201

特別支援学級に在籍のあるアスペルガー症候群の小二の男児は、席にじっとしていられずに、トラブルやパニックばかり起こしていた。目を離すと教室から出て走り回るのを、教師が三人がかりで追いかけているというありさまだった。ところが、ある工夫をすると、別人のように静かに座っていられるようになり、学習にも集中できるようになった。その方法とは、机を一番前の壁に向かって置き、もう片側もパーテーションで囲って、視界に余計なものが入らないようにすることである。正面には、彼が大好きな電車の写真を貼り、横のボードには、時間割に従って、各科目を示す写真がマグネットで留められている。そこで、彼は自分が取り組むべきプリントやワークブックだけに集中できるようになったのである。
別の小学校高学年の生徒は、まるで集中力がなく、隣の生徒にちょっかいを出したり、ピントはずれな質問をして、授業を止めたりしていた。ところが、ある方法を使うと、問題を解く時間は、集中することができた。その方法とは、タイマーを置いて、一分とか三分とかの制限時間を決めて、取り組むというものである。その間だけは、気を散らさずに、必死で手を動かしていた。だが、時間がありすぎたりすると、余計なことばかりをし始めるのだ。

暗黙のルールを噛み砕いて教える (子供)

p.205

アスペルガー症候群の人では、成績がよいケースも少なくないが、そうした場合も、国語の読解だけは苦手で、数学や英語では高得点できるのに、現代文だけは、平凡な得点に留まるというパターンがしばしば見られる。数学的な思考や記憶力に比べて、文章を読んで、作者や登場人物の意図や気持ちを理解するといった問題では、微妙なにゅあんすいが読み取れずに、うまく答えられない。読解力の弱さには、感情の認知や、心の理論、関係性の理解といった社会的な能力の問題が反映しているので、一朝一夕には、なかなか身につくものではないが、その点を鍛えることには、逆にいえば社会的認知を改善させることにもつながる。
... どういう暗黙の考え方や隠れた意図があるのかということを、経験的に知識として学んでいくのも一つである。その蓄積によって、次第に人間の行動の習性や意図が読み取れるようになり、次の反応の予測がつきやすくなる。それに役立つのは実体験であるが、その場合は、誰かが背後の意図や暗黙のルールについて、常日頃から解説して、わかりやすく噛み砕く必要がある。ただ、実体験に触れるだけでは、そこから学びにくいのである。
その意味で、実体験を補うものとしては、優れたノンフィクションやフィクションの作品に触れることが挙げられる。人間の生き様や行動が、わかりやすく再構築されているので、人間というものを学ぶためのよい教科書となる。

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