「やりたいこと」がわからない人たちへ - 鷲田 小彌太

「やりたいこと」がわからない人たちへ - 鷲田 小彌太 (2001年作)

著者の経験・知見から来る主張が参考になった。以下心に残ったメッセージを引用：

現実は妄想より厳しい

p.112

現実というのは、たいがいは本から想像されるもの以下なのである。つまり夢よりも少しきびしい。いや、うんときびしいと考えたほうがいいかもしれない。脳で味わう方が舌で味わうより甘美な味がするのだ。
だから、「ああ、これこそが自分の人生だ！自分の望んでいたものだ！」というものを発見し、それを現実にするチャンスが与えられたとしても、実際に取りかかり、続けていけば、自分のやりたいと思ったことが実現するかというと、必ずしもそうではないのだ。料理本と同じで、作って、味わってみれば、だいたいのところは失望するものだと思っていい。

つまらない事に全力をあげる

p.180

やりたいことが見つかって、全力で進むと、責任を負わなければならない。困難にも耐えなければならない。これまたつらい。
だから、心的には、やりたいことを「これだ」と決めず、いつまでもぐずぐずしているほうが楽だ、ということになる。イージー・ゴーイングである。
しかし、どんなにつまらないと思えることでも、それを選んで、力を込めてそれをやり通すことができれば、かならず「つまらない」と思えたことにも大きな意味を見出すことができる。
...
自分が全力をあげられるものを見出すことは重要だが、もっと大切なのは、どんなものに対しても全力をあげるということ。問題は、目の前にあるものを拾いあげ、それに全力を注ぎこむことだ。かならず、「宝」が生まれる。最後の宝とはいわないが、自分の分身ができる。

身近・現状を見る

p.185

目の前にあるものをあえて拾おうとしない。それが人間に共通する性癖である。遠くにあるもの、自分の経験の中にないものに憧れ、チャレンジしようとする。だから、どうしても、「やりたいこと」を身近から探し出すことに躊躇するのだ。この性癖 (自然力) は、一面では、素晴らしい。想像力をかきたて、どんな困難にも屈しない気概を養う。
しかし、自分の近くにあるものを、無視し、捨てて顧みないという「現実」軽視に落ち込ませる。場合によっては、誇大妄想狂に仕立て上げる。
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想像力を発揮する人は、現実を無視する人ではない。身近にあるごく平凡としか思えないものの中に、価値あるものを発見し、それを現実するために全力をあげる人である。

困難から得るもの

p.208

勇気や気概は、教えられても、本で読んでも身につかない。筋肉と同じで、困難という負荷をかけられないと生まれない。
与えられた課題がつまらない。御免被る。もっとやりたい仕事がしたい。こういう人は、ほとんどいい仕事をしていない。さらにいうと、いい仕事さえやってこない。
いやだといって仕事選びをする人には、いい仕事がやってこないことが多い。皮肉なことに、いい仕事がやってこないから、ますます能力を発揮するチャンスを失う。評価がいつまでも生まれない。

やりたいことが自然と見えてくる

p.211

こんなことを自分からしたくない。しかし、課せられた。逃げるわけにはゆかない。やり抜こう。こうは思っても、したくもないことをしているのだ。気持ちが引けて当然だろう。
そんな場合、自分が本当にしたいこと、するために必要なものを、あれでもない、これでもない、とどうしても考えざるをえなくなる。いまやっていることにどんなに一生懸命にぶち当たっても、あるいは、一生懸命にぶち当たれば当たるほど、これではない「別な何か」を強烈に志向せざるをえなくなる。これも自然な流れだ。
そうすると、おもしろいことに、ある時、フッとある「別な何か」の姿が、水平線上に現れて、どんどん近づいてくる。そして、その鮮明な姿を見せるのだ。これがお前が求めていた「やりたいこと」だよ、と啓示が下る。啓示だなどと大げさな言い方だと思うだろう。しかし、闇の中で灯りが点るように、本当に不意にやってくるのだ。

やりたいこととは、いまやっていること

p.230

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「やりたいこと」とはいまこの時やっていることである。たんなる願望、気持ちのあり方をいっているのではない。
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現在を賢明に生きると、過去を振り返る必要がなくなる。過去の記憶は、記憶として懐かしく残るだけだ。未来に不安を抱く必要はなくなる。未来はまだやってきていないからだ。