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パーソナリティ障害 - いかに接し、どう克服するか - 岡田尊司

抜け出す方法

p.22

どうすれば、自分をうまく活かせる生き方ができるのか。どうすれば、もっと楽に人とつながれるのか。

そのためには、まず自分を知ることである。そして、相手を知ることである。パーソナリティについて理解を深めることは、自分に合った生き方や人とのつながり方を知る助けになるだろう。自分に合わない生き方や人間関係のスタイルをいくら追求したところで、結局うまくいかないし、迷路に入るだけだ。また、相手のタイプを見極めずに、自分の流儀を押しつけたところで、成果は望めないし、下手をすれば、ひどく嫌われてしまったり、思わぬ攻撃を受けたりしかねない。

パーソナリティ障害の特徴

p.34

まず、パーソナリティ障害の人の特徴は、「自分に強いこだわりを持っている」ということである。口に出していうかいわないかは別にして、パーソナリティ障害の人は、自分に囚われている。それが、すばらしい理想的な自分であれ、みすぼらしく劣等感にまみれた自分であれ、自分という強迫観念から逃げられないのだ。自分についてばかり語りたがる人も、自分のことを決して他人に打ち明けない人も、どちらも、自分へのこだわりという点で同じである。
もう一つの共通する特徴は、「とても傷つきやすい」ということである。健康なパーソナリティの人には、何でもない一言や些細な素振りさえ、パーソナリティ障害の人を深く傷つける。軽い冗談のつもりの一言を、ひどい侮辱と受け取ってしまったり、無意味な咳払いや、雨戸を閉める音にさえ、悪意を感じて傷つくこともある。
この二つの特徴は、現実の対人関係の中で、もう一つの重要な共通点となって現れる。つまり、「対等で信頼し合った人間関係を築くことの障害」である。それは、さらに、愛すること、信じることの障害にもつながる。どのタイプのパーソナリティ障害でも、愛し下手という問題を抱えている。尽くす愛、溺れる愛、貪る愛、押しつける愛、試す愛、愛せない愛... そのタイプはさまざまだが、愛の歪みやバランスの悪さが、当人を、あるいはパートナーや家族を、安定した幸せから遠ざけるという点では、同じである。

p.38

パーソナリティ障害の人は、たいていどこか子供っぽい印象を与えることが多い。それは、彼らが子ども時代の課題を乗り越えておらず、大人になっても、子供のような行動をとってしまうためである。人はそれぞれの段階の欲求を十分に満たし、成し遂げるべき課題を達成して、はじめて次の段階に進めるのである。パーソナリティ障害の人は、その意味で、いまだに子供時代を終えていないともいえるだろう。

境界性パーソナリティ障害 - 極めて不安定な対人信頼

p.98

それまで、何十回も、時には何百回も、自分のために相手が時間を割き、援助してくれても、たった一度拒否されただけで、すべての献身が見せかけのものに思えて、相手が信じられなくなってしまうのだ。その挙げ句に、激しい怒りで反応してしまう。
今まで積み上げられてきた何百回ではなく、今この瞬間の一回がすべてを左右するという気持ちの不連続性が、境界性パーソナリティ障害の対人関係を極めて不安定なものにしてしまう。過去の積み重ねの上に自分は存在し、過去を、責任を持って引き受けることが、一貫性のある自分を保つことになるのだが、それが非常に難しいのだ。
だが、これも変えていくことができる。人と一貫してつながる力を、育てていくことが可能なのだ。そのために必要なことは、人とすばらしい関係を築くことよりも、じっくりと長くつながることを大切にすることだ。

自己愛性パーソナリティ障害 - 非難を受けつけない

p.104

自己愛性パーソナリティ障害の人は、非難に弱い。あるいは、非難をまったく受けつけない。ごく小さな過ちであれ、欠点を指摘されることは、彼にとっては、すべてを否定されるように思えるのだ。このタイプの人は、強迫性パーソナリティの人と同様、完璧主義者なのである。したがって、自己愛性パーソナリティ障害の人は、非難されると、耳を貸さずに怒り出す。なかなか自分の非を受け入れようとはしない。

だが、それが逃れられないものだと悟った瞬間に、彼はすべてが台無しになったような思いに駆られ、ひどく落ち込む。

したがって、自己愛性パーソナリティ障害の人は、人に教えられるのが苦手である。

失調型パーソナリティ障害 - 人目を気にしないマイペース人生

p.196

スキゾタイパルの人は、どこか異星人のような、浮世離れした雰囲気を持っている。それは、よくいえば精神性の高さであり、悪くいえば、非現実的な傾向である。スキゾタイパルの人は、内的な思考の中で生きているので、常識的な考えに囚われず、独特な物の見方をすることが多い。そのため、下手をすると変人視されてしまい、孤立したり、疎外されることもあるのだが、ある程度現実的な能力を持ち合わせていたり、そうした面で、助けになってくれる人がいると、持ち味の独創性や精神性を活かして、活躍できる。

p.197

このタイプの人は、服装やファッションにも、余り関心がなく、体を覆えていればいいというくらいに考えている。精神的なこと、内面的なことが重要なので、外見などは、どうでもいいと思っているのである。乗っている車なども、たいてい見栄えしないポンコツで、おまけに、余り洗車もしていないことが多い。そうした人目を飾ることに労力や時間をかけるということを、馬鹿げていると思っているのである。

p.200

スキゾタイパルの人は、インスピレーションが豊かで、アイデアマンであることが多い。ルーチン・ワークは嫌いだが、ルーチン・ワークの効率を高める工夫は得意である。新しい着想や着眼点で、物事を考えようとするので、周囲がついていけないことが起こりがちだが、よく聞いてみると、とてもユニークで、しかも有用な発想だったりする。
...
スキゾタイパルな人は、それなりの場が与えられ、きちんと評価されると、優れた仕事をやってのけるが、非常に繊細で敏感なところもあるので、本人のペースを無視してプレッシャーをかけすぎたり、急ぎ立てすぎると、結果が出ないどころか壊れてしまう。被害者妄想的になってしまうこともある。プレッシャーよりも前向きの評価が、よい結果を生むだろう。

p.204

逆に孤立していくと、このタイプの人は、しばしば迫害妄想や被害関係妄想を抱きやすい傾向がある。自分の頭の中で、いろいろ悪いほうに考えを膨らませてしまうのである。そうなると、どんどん孤立を深め、次の項で述べるような、精神的な失調状態を引き起こすこともある。それを予防する意味でも、余り自閉的にならず、適度なコミュニケーションをとることは大切である。

p.206

危機を克服する方法には、他にもいくつかある。その一つは、意外に思われるかもしれないが、引きこもることである。完全に引きこもるのは、別の障害が生じるので、お勧めできないが、世間との交わりを必要最小限にする程度の引きこもりは、破綻を防ぐ有効な方法である。世間から一歩身を引くことで、その風圧が弱まり、危機の時代をやり過ごしやすくなるのである。
さらに、もう一つは、転生というか、別の生き方に乗り換えることである。これは、煮詰まって重荷が増えすぎた状況では、危機を乗り切るのに非常に有効である。自分が潰れないために、いったんすべてを御破算にするのである。そういう状態は、脳のシステムからすれば、バグが蓄積して、フリーズしかけているようなものだ。新たにシステムを立ち上げ直したほうが、うまくいくのである。

シゾイドパーソナリティ障害 - 欲がなく清貧に生きたい

p.211

貪欲さや成金趣味とは正反対な人で、清貧に生きることが多いし、似合っている。物質的なものよりも、精神的で、内面的な価値に重きを置く。俗世になじまない、世捨て人のような雰囲気があるのだ。修道僧のような人生を歩んだり、本当に世を捨ててホームレスになってしまう人もいる。
欲が乏しいということは、物質的な面だけでなく、肉体的な面にも及ぶ。このタイプの人は、概して禁欲的で、積極的に楽しみ事を求めたりすることも少なくない。出世欲や名誉欲も余りなく、むしろ、俗世の欲にまみれた、醜い生存競争の世界から遠ざかりたいと思っている。遁世願望や都会を脱出して、大自然の中で自給自足の生活ができればと、思っている人も多い。
...欲の乏しさを反映して、喜怒哀楽や感情も淡泊で、希薄な傾向がある。この感情の淡さは、シゾイドパーソナリティのもう一つの大きな特徴である。

それで、感情が余りないとか、平板だという誤解を受けやすいが、本当は、極めて繊細で、わずかの感情の動きにも敏感であるがゆえに、強すぎる感情は、ただ不快に感じるだけなのである。

内面は意外に豊か

p.213

余り対人関係のない職種では、能力を発揮する。余計な人間関係に、時間やエネルギーを割かない分だけ、自分の仕事に集中するので、知識や情報の面では優れている。コンピューター関係の職種には、こうしたタイプの人が多い。逆にいえば、非常に向いているのだ。
また、このタイプの人は、大自然の中を逍遥したり、孤独に旅することを好む。無口だがとても思案的で、宗教的な霊性や芸術的な感性を持っていることも多い。だから、親しくなると意外に内面は豊かで、興味さえあれば、楽しい話相手にもなれる。
余り口も開かないし、自分から進んで発言もしないので、自分の意見など持ち合わせていないと思うと、大間違いである。意外に、こだわりの強い意見を持っているし、自分のこだわりや信念には、潔癖で、頑固である。基本的に孤独を好むので、協力して仕事をするのは性に合わないし、うまくいかない。

己の世界の侵害を恐れる

p.214

プライベートな質問も、このタイプの人には、侵襲的な作用を及ぼす。妄想性パーソナリティと異なり、そうした質問に対して、馬鹿正直な答えが返ってくることが多い。このタイプの人は、嘘をついたり、人を騙すということが基本的にないからだ。だが、それをいいことに、過度に立ち入った話を聞き出したりすると、後で、思いがけない反応を起こすことがある。彼の孤独な聖域を侵さないように、慎重に時間をかけて、関係を築いていくのがよい。

己の世界を究める

p.218

このタイプの人は、無理に社交的に振舞おうとしたり、人付き合いを増やそうとするよりも、気の合った少数の同好の士との関係を深めるのがよい。世俗的な成功をめざしても、どこか無理をしているので、長続きしなかったり、楽しくない生活を強いられる。何よりも自分の特性を知り、それに合ったライフ・スタイルや職業を選ぶことが、楽しみながら、成功するポイントである。
...シゾイドパーソナリティの人は、自分の天性を否定したり、無理やり変える必要はない。むしろ、その長所を活かすべきだ。自分の天性とぴったりの仕事に出会った者は、幸福で充実した人生を送ることができるだろう。

強迫性パーソナリティ障害 - すべての行動が義務と化す苦しみ

p.269

また、このタイプの人は、非常に努力家で、努力すれば、必ず成果や見返りが得られるという確信を持っており、頑張ることにもっとも価値を置いている。そのため、頑張っても成果が出ない状況に置かれると、非常に強いストレスを感じ、徒労感に苛まれる。
このタイプの人は、絶えず何かしていないといられず、のんびりリラックスすることが苦手である。何事も、楽しむということができない。計画を立て、立てた計画通りに実行することが、最善だと信じている。どんな楽しみ事も、計画の実施という色合いを帯び、義務感とダイアグラムに従って行われる窮屈な儀式と化す。

p.272

強迫性パーソナリティの人は、すべての行動が、楽しみのためよりも、義務を果たすために行われるので、何をしても、本当には楽しめないのだ。また、人は努力するのが当然と思っているので、子供が怠けると叱る割には、頑張っても、あまり誉めない。子供は、楽しみの乏しい子ども時代を過ごしがちで、生きることは苦行だという印象を持ち、これ以上苦しいことはしたくないという思いから、無気力になりがちである。

p.275

このタイプの人とうまくやっていくコツは、責任の範囲や役割分担を、明確に決めることだ。そうすれば、本人の秩序愛を、その領域を完璧にすることに安心して注ぎ込むことができ、自分の秩序に基づいて支配したいという欲求が、際限なく広がることを防ぐことができる。相手がパートナーであれ、同じことがいえる。決まりや取り決めがあると、本人は安心して、家事であれ、子育てであれ、愛の営みであれ、前向きに取り組むことができる。
これをしておくことは、本人がうつ病になったり、心身症になるのを防ぐことにもつながる。というのは、限界を決めておかないと、本人の完璧主義や支配欲求は、際限なく広がり、どんどん仕事を抱え込み、疲労してしまうからである。

p.277

強迫性パーソナリティの人は、とにかく休むことが苦手である。休みも休みにならないことが多く、旅行にいっても、細かく日程を決め、予定通りに朝から晩まで動き回るのがこのタイプの人である。リラックスして、のんびりするということが、できないのである。遊びが苦手で、すべてが義務になってしまう。何をしていても、次の予定が頭をよぎったりして、気ぜわしいのである。楽しむよりも、計画通りこなしているかどうかが気になってしまう。

他人に同じことを期待しない

p.279

強迫性パーソナリティの人の生きづらさは、頑張りすぎることと同時に、もう一つは、自分と同じ基準を、いつのまにか他人にも求めてしまうことから生じる。

p.283

パーソナリティ障害は、大きなエネルギー源ともなれる。創造的な仕事であれ、奉仕的な仕事であれ、自らが抱えるキズや歪みゆえに、パーソナリティ障害の人は、ねじりの利いたバネが強い力を発揮するように、ツボにはまれば途方もない力を生むのである。そうした力が活かされるように、現実的な適応力をつけ、あるいは、そうできるように周囲が支えることは、とても大切だと思う。

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